「野生の思考としての十二支〜小さな宇宙から大きな力へ〜」後編
講師/濱田陽 氏(帝京大学文学部教授)
ここから生き物の話をします。ちょうど子から丑に移り行くタイミングが近づいています。ねずみとうしの関係をこれまでのパースペクティブ(視点)に立ったうえで文化文明との関わりを見ていきます。ここでは、ねずみを小さな宇宙ととらえました。江戸時代にねずみは人々に最高に親しまれていました。ねずみたちの姿を借りてその生活を豊かに描く絵本がたくさんありました。日本では子供の絵本はねずみに始まるといわれていたほどです。そもそもグレーを示す灰色が火事を想起させるとして縁起が悪いとなったとき、ねずみ色とよぶようになったのは、人々がねずみに対して深い親しみを持っていたからです。百ねずみといって百種類以上のねずみ色がありました。ユニクロとか無印がそれを商品化してくれないかなといつも思います。
都や寺院にこの小さな生き物がいるのが当然だという風に考えていて、もし完全にいなくなると火事や地震が起きる前触れととらえていました。今日の動物行動学では母にしっかり育てられた子ねずみは成長してからストレスに強いことまでわかってきています。そもそも人とねずみの哺乳動物としての共通性連続性があるからこそ、最先端科学、医学はねずみを人の代わりに実験に使うのです。IPS細胞の発明もワクチン開発も、人間の脳がいかに時間空間を把握するのか、それもねずみを手掛かりとして、ねずみで明らかになったことをヒントに人間に適用する。これは現代科学の姿ですが文化や日常生活の中で私たちはそうした連続性を失って意識の中ではねずみを切り離しています。しかし無意識では連続性を感じているからこそミッキーマウスやぐりとぐらなどに親しみを感じるのではないでしょうか。
続きは2021年3月号(2/15発行)掲載